こんな文章を書いてみました。ご意見、ご感想をいただけると嬉しいです。
関連して、いま、「ぶらっと!」というサイトでやってるNPOのコンテストのようなものに応募しています。うちは「Buy 能登」をテーマに出しています。
http://www.burat.jp/top
明日が投票締切ですが、応援いただけると有り難いです。
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「販路」という挑戦
〜私たちの目指すもの〜
2007年5月26日
みみずく舎 実吉 威
毎日夕方、店のレジを閉める時間になるとそわそわしてくる。今日の売上はいくらだっただろう。目標はクリアしてるだろうか、、、。「売上高」「利益率」「粗利」といった言葉はNPOでも無縁ではなかったが、俄然、日々切実な言葉になってきた。「みみずく舎」の事業本格化からちょうど1年。私たちの目指しているものの姿が、事業の中からいっそう明瞭に見えてきた。
【フェアトレードの一端を担う】
障がい者や在住外国人、海外のコミュニティが自立するために、モノを作り、売って収入を得て経済的自立を目指すという運動がある。海外の生産者とつながり、日本など先進国でそれを適正価格で仕入れ、売ることをフェアトレードと呼ぶ。みみずく舎は現在のところ輸入そのものはしていないので厳密にはフェアトレード団体ではないが、末端の流通の部分でその一端を担っている。また通常はフェアトレードと呼ばれないが、国内の障がい者が作業所などで生産したものを販売する店も、理念としては通じるところがあるだろう。そこで私たちは普段「フェアトレードショップ」を名乗っている。
2007年5月現在、取引先は兵庫県内を中心に45団体を数えている。内訳は次の通りである。
障がい者作業所など 17団体
海外フェアトレード関係 11団体(社)
能登半島地震関係 17団体(社)
【作業所やフェアトレード団体の課題】
有限会社みみずく舎を設立した際、私たちはこれらフェアトレード等の世界の「流通」の部分を担おうと考えた。それは、生産団体やフェアトレード団体の多くは規模が小さく、「営業」や「拡販」に十分なエネルギーを割けないと見えたからである。
生産者としての規模が小さいだけでなく、多くの団体は当事者の生活支援などの福祉的業務も同時に行っており、生産活動が第一とも必ずしも言えない。生産・販売を第一義としない(そうできないのも無理のないことだ)ということは、一般の企業が必死で競争を繰り広げる「市場」というステージにはなかなか乗りにくいということになる。そのことと裏腹で、福祉の世界では、一般の消費・購買関係と違って商品そのものの魅力で商品を買ってもらうのではなく、「お付き合いで」「関係者が」買うという色が濃いことも多い。
これらを象徴することが2つある。一つは「値段づけ」、もう一つは「供給力」である。多くの場合、生産団体の付ける価格は、消費者と接する私たちから見ると安すぎる。最近はいくつもの団体が頑張って商品開発を行い、かなり良い商品を作ってきている。もっと強気で値段を付けてもいいのに、あるいは少しだけ改善すれば今の倍以上の値段にできるのに、と思えることがよくある。普段は一般の商店に置くことが少なく、バザーや知り合いのつてなどでの販売が多いからではないかと想像している。
後者は、目下の私たちの大きな課題である。良い商品であれば、売れる。売れたらすぐに補充しなければならない。一般の市場に商品を出せば、追加供給がどれほどできるかがすぐに問題になってくる。売り手としては、求めてくださるお客様に商品を提供し続けることが責任だが、人気のある良い商品を作っても、それを安定的に生産・供給し続けられない場合も多い。
【流通を担うことの意味】
私たちみみずく舎は販売店として、生産者と消費者の間に立っている。そのことの意味は3つあるように思う。一つは消費者に対して、フェアトレード商品・障がい者作業所商品を届ける「窓口」「陳列棚」、つまり商品の「販路」になること。1つ2つの団体の製品ではなく、選りすぐった44の団体の製品を人通りの多い商店街に並べることの価値は限りなく大きいだろう。
二つ目の意味は逆の方向で、消費者が何を好むか、どんな欠点を致命的と感じるか、もっとこんなデザインのものを欲しい、値段は、、、といった情報を生産者にフィードバックすることだ。そもそも売れるか売れないかという事実そのものが重要な情報である。私たちは、障がい者や在住外国人、海外コミュニティの支援が元々の設立目的であり、そういった情報をできるだけ丁寧にフィードバックしてゆきたい。
三つ目はいわば「ダム」の機能。上に述べた生産団体の供給力を増やしてもらうためにも、店での売上を伸ばしてゆかなければならないが、実際に何がいくらほど売れるかは、「やってみないと分からない」。その不確定なリスクを誰が負うかという問題で、私たち小売店が商品を買い取らなければ(委託販売)、生産団体にとっては商品が売れたことにならず、在庫リスクは生産団体に残って安心して次の生産に励めない。私たちの商品選択力と資金力が問われるところだが、リスクを負って商品を買い取り、店に陳列・ストックし、経済を回転させる小売店の機能は重要だと感じる。
【ほしい資本力】
上に書いたことは別の表現をすれば社会的分業ということになる。これまでは、例えば小さな作業所が、商品の開発、生産、そして販売(流通)とすべてを1団体でやってきた。しかも職員は福祉の専門家であってビジネスの専門家ではない。これではうまく経済の流れに乗せられる方が奇跡だろう。
私たちは流通部分を分担するという社会的実験をしているわけだが、ここで私たちの資本力が問われてくる。まだ経営は安定軌道には乗っておらず、毎月赤字を出し続けている。どこまで資金力が続くかの勝負だ(2007年度末の単月黒字化が当面の目標)。店の存在を知ってもらうための広報も重要で、ホームページ、ブログ、紙媒体を出しているがまだ十分ではない。みみずく舎の母体である市民活動センター神戸(KEC)の役員・会員はじめ多くの市民がボランティアでサポートしてくれているが、もう少しあれこれ手を打つための資金がほしいところだ。上記「ダム機能」についても同様で、資金力があればもう少し在庫を抱えることができ、品揃えの充実、売上の向上にもつなげられる。
【最後に〜中間報告として】
私たちは当初から「同情やお付き合いで買ってもらうのではなく商品そのもので勝負する、そういう生産と販売をサポートしたい」と思っていたが、上記のようなことを明瞭に理解していたわけではない。かなりの部分は物販店の経営をやってゆく中で見えてきたことだ。今後も事業の中からいろんなことが見えてくるだろう。
みみずく舎はいわば商品と情報の交易所である。上に書いたことはいずれもみみずく舎がその一部をなす「市場」というものの基本的な機能だろう。これは経済学の知識からするとごく当然のことかもしれないが、これまでフェアトレードや障がい者の世界と経済学とはあまりに遠かった。その間を架ける存在の一つに、みみずく舎がなれればとよいと願っている。